民話のなかには、日本各地で同じような内容で語られている「類型的な話」が数多く存在します。 似たようなお話があちらこちらに生まれる理由としては、
地形や気候といった自然環境など地域性の違いはあっても、人々の営(いとな)みやものの考え方・感じ方には多くの共通部分があるために、似た内容のお話が生まれる土台があった。
ということに加えて、
村々をわたり歩く職人などが訪(おとず)れた先々で語り伝えるなど、人や物の交流とともに民話の交流も行われた。また、よその土地からきたお嫁さんが、生まれ育った村で語られていたお話を伝えたということも考えられる。ひとつひとつは小さな範囲での交流も、積み重なることにより全国的な広がりがもたらされることにもなった。
といったことが考えられます。
似たようなお話が語られている地理的な範囲(はんい)としては、ごく狭(せま)い地域のみのものからひとつの県内のみで語られているもの、複数の県にまたがるもの、さらには日本全国に及(およ)ぶもの、というように、さまざまなパターンがあります。
さらに、日本国内だけではなく世界の民話についても、国境を越(こ)えた思いがけないような地域間に、似たお話が伝わっているということが起きています。詳(くわ)しいことについてはここでは触(ふ)れませんが、とても興味(きょうみ)深いことですね。
日本の民話に話を戻(もど)しますと、非常に具体的(ぐたいてき)な固有名詞(こゆうめいし)─地元の地名や実在した人物の名前─を用いて語っている民話であっても、話の大筋(おおすじ)では類型的であることが珍(めずら)しくありません。逆(ぎゃく)に言えば、どこからか伝え聞いたお話がまずあったとして、そのお話にうまく地元の地名や実在の人物がはめこまれて、その土地の民話として定着した、ということなのかも知れません。
それでは実際に、身延に伝わる類型的なお話をいくつか見てみましょう。
|