伝説と昔話とはどう違うか。それに答えるならば、昔話は動物の如(ごと)く、伝説は植物のようなものであります。昔話は方々(ほうぼう)を飛びあるくから、どこに行っても同じ姿を見かけることが出来ますが、伝説はある一つの土地に根を生やしていて、そうして常に成長して行くのであります。雀(すずめ)や頬白(ほおじろ)は皆同じ顔をしていますが、梅(うめ)や椿(つばき)は一本一本に枝振(ぶ)りが変わっているので、見覚えがあります。可愛(かわい)い昔話の小鳥は、多くは伝説の森、草叢(くさむら)の中で巣立ちますが、同時に香りの高いいろいろの伝説の種子や花粉を、遠くまで運んでいるのもかれ等(ら)であります。自然を愛する人たちは、常にこの二つの種類の昔の、配合と調和とを面白(おもしろ)がりますが、学問はこれを二つに分けて、考えて見ようとするのが始めであります。
『日本の伝説』はしがきより