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わしのきほん 和紙の基本
 和紙のはじまり  和紙ってどんなもの?  原料のこと  植物が和紙になるしくみ
 和紙の種類  この紙どんな紙?

植物が和紙になるしくみ
 和紙は、楮や三椏などの繊維(せんい)を水に浸(ひた)した液を、木枠(きわく)の中の「簀(す)」に流し込み、乾燥(かんそう)させて作ります。 液体のときにはひとつひとつがばらばらだった繊維が、乾燥したあとにはつながって1枚の紙になるのですが、繊維どうしをくっつけるための何かを加えているわけではありません。そのしくみは、植物の繊維がもつ特徴的な性質にあるのです。

 植物に含まれている繊維は、「ほかの繊維と重なると、重なった部分がしっかりとくっつき合う」という性質を持っています。植物繊維のことをセルロースというのですが、セルロースはセルロース分子が集まってできています。セルロース分子の一部分は水の分子と同じ型をしているため、その部分で水とも結合し合います。ですから、セルロースは水によくなじむ性質を持っています。
紙漉き
天日干し
漉いた紙を次々と積み重ねて(上)、積み重ねた状態のまま乾燥(下)

 和紙を作るときには、植物繊維によく水を吸わせた液を簀に流し込みますが、この時点では、個々の繊維は水と結び ついています。ところが乾燥して水分がなくなると、水と結合していた部分はほかの繊維と接触(せっしょく)します。するとその接触した部分がしっかりと結合するので、ばらばらだったたくさんの繊維がひとつながりになり、シー ト状の紙ができあがるのです。 繊維が長ければ長いほど、ほかの繊維と絡み合っているところが多いということなので、より強度のある紙ができるのです。

 ところで、紙漉きといえば、紙を漉く職人さんが漉いた紙を次々と重ねていくようすを見たことがあると思います。漉いてすぐの濡(ぬ)れたままの紙を、簀をひっくり返しては、すでに漉き終わった紙の上に重ねていきます。紙と紙の間には何もはさんではいません。西嶋和紙の製法では、漉いた紙を積み重ねた状態のままで水分を絞(しぼ)り、積み重ねた状態のままカチカチになるまで充分に乾燥させます。
 先ほどの結合の話からすると、これでは乾いたときに、ぶ厚い紙の塊(かたまり)ができてしまいそうです。でもそんな困ったことにはなりません。この不思議を解明するヒントは、畑でとれるある食べ物にあります。

原料ではないけれど
 和紙づくりにとってかかせないものに、「ねり」といわれるものがあります。「ねり」は、楮や三椏のような和紙の直接の原料ではありませんが、大切な役割を果たしています。
 植物繊維を水に浸した液から和紙を作ることは、上でも書きました。繊維は「簀」の上に均等にのるようにする必要があります。そうしないと、紙の厚さにムラができてしまいます。均等に「簀」にのせるには、繊維の液に全体に均一に繊維が行き渡っていなければなりません。ところが繊維は水より重いので、よくかき混ぜてもすぐに水に沈んでしまうのです。そこで「ねり」の登場となるわけです。
 「ねり」には、トロロアオイやアオゴリ、ギンバイソウなどの根、ノリウツギの皮などが使われます。これらの植物に含まれる粘液(ねんえき)を利用するのです。いちばんよく使われているのはトロロアオイの根で、根をつぶして水に溶け出させた粘液をろ過して使います。これを原料(繊維の液)に混ぜて攪拌(かくはん)します。「ねり」が原料に混ざると、個々の繊維が「ねり」のヌルヌルに包み込まれます。原料液に粘り気(ねばりけ)が出るので、繊維がすぐに沈んでしまうのを防ぐことができるのです。

 トロロアオイには別の呼び名があります。背丈(せたけ)くらいにも伸びて、夏にレモン色の大きな花を咲かせる「ハナオクラ」です。食用にする花の部分も、切り口からヌルヌルが出てきますよね。トロロアオイはほかにも、丸薬(がんやく)の粘滑(ねんかつ)料やそばを打つ時の「つなぎ」に使われます。

 ところで、なぜ漉いた紙を次々に積み重ねても、ひとかたまりにならないのか、という話の続きです。
 「簀」に原料液を流し込む作業は、ただ全体が均等になるように流し込んでいるのではありません。「簀」を前、後、前、後ろと上下に動かし、揺り動かす動作を何度もくり返しますが、こういう動きがくり返されるなかで、全体の厚さも一定になり、さらに繊維どうしがしっかり絡み合った状態になります。「ねり」を使っていると原料液に粘度があるため、「簀」を揺り動かすあいだに「簀」から水が抜け落ちる速度が遅くなり、繊維をしっかり絡み合わせやすくなります。つまり、まだひとつひとつの繊維はばらばらでも、全部の繊維がいずれかの繊維としっかり絡み合った状態になっているのです。
 一方、重ねた紙どうしの繊維はまったく絡み合っていません。重ねた紙は湿った状態のときにはがしますから、本来のしっかりした結合は起きてはいなくて、繊維の絡み合った部分の強度だけで結びついているため、紙と紙との境目(さかいめ)で簡単にはがすことができるのです。