身延の民話




【地区】
下部
旧下部町
下部地区

【ジャンル】
動物
動物

【出典】 『下部町誌』 (下部町誌編纂委員会 1981)
水恋鳥
 みずこいどり
 一年で一番忙(いそが)しい5月の農繁期(のうはんき)になった。岩欠(いわかけ)のある農家では、老夫婦が麦の手入れ、田植えの準備と朝から晩(ばん)まで食事をする暇もない。馬を一頭飼(か)っていたが、このところ幾日(いくにち)も水を与えられず飼葉(かいば)は放り込んだまま、見るも哀(あわ)れな状態となり馬はやせ細ってついに餓死(がし)してしまった。夫婦は手が回りかねて死なせたことを大変悔(く)いて厚く葬(ほうむ)った。

 それからというもの毎年5月の農繁期ころになると、小さい鳥が来て「ヒョロ、ヒョロ、ヒョロー」と哀調(あいちょう)を帯びた声でさえずりながら水を飲むという。村人達は馬の霊(れい)が鳥になって水を飲みに来るのだといって、この鳥を水恋鳥といい鳥の声を聞くと「馬おけに水があるか」と馬に水を与えるようにしているという。

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