身延の民話




【地区】
下部
旧下部町
下部地区

【ジャンル】
言い伝え
言い伝え

【出典】 『下部町誌』 (下部町誌編纂委員会 1981)
塩が池
 しおがいけ
 上田原(かみたんばら)のある家の庭すみに直径1.5メートル深さ3メートルぐらいの古池がある。十数年前までは数軒(けん)で飲用水として水をくんでいた。

 昔、駿河(するが)から紺(こん)がすりの筒(つつ)そでに赤い前掛(か)けをした美しい娘が塩を売りにきた。今年も娘は下田原の船着場(ふなつきば)へ荷を上げ、一部を背負(しょ)ってやってきた。どうやら好きな人ができているらしく、その男が山から下って来るのが目について、娘はうれしさに近道をしようと池のそばを通ったとたん足をすべらせ、荷物もろとも転(ころ)げ込(こ)んでしまった。幸(さいわ)い直(す)ぐ救い出され一命は助かったものの、一叺(ひとかます)の塩は全部水に溶けてしまった。

 その時からこの水は塩辛くなって「塩が池」と呼ばれるようになった。今も澄(す)んだ水をたたえているが、なめるとわずかに塩辛い味がするという。