身延の民話




【地区】
原
旧中富町
原地区

【ジャンル】
動物
動物

【キーワード】
富士川・屏風岩
富士川・屏風岩
【出典】 『富士川谷物語』 (加藤為夫、山梨日日新聞社 1987)
富士川下りの五人娘
 ふじかわくだりのごにんむすめ

 昔、宮木(みやき)村である年、家々(いえいえ)の鶏(にわとり)が盗(ぬす)まれた。はじめ泥棒(どろぼう)の仕業(しわざ)だと村人は思っていたが、ある家で鶏小屋から狐(きつね)が鶏をくわえて飛び出すのを見つけ、狐を追いかけた。狐は村の松林へ逃げ込んだ。それを追っていくと、松林の奥に鶏の羽がいっぱい散らかっているのが見つかり、その近くに狐穴があった。

 村人は狐をいぶし出そうと青松葉(あおまつば)を燃やして煙(けむり)を穴へあおり込んだ。しばらくすると数匹の狐が穴から飛び出し、松林の中へ逃げ込んでしまった。

 その時刻から間もないころ、4里(り)上流の鰍沢(かじかざわ)から岩渕(いわぶち)まで下る舟が、富士川の急流に乗って来た。舟が宮木の舟着場(ふなつきば)へ近づくと、着飾(かざ)った娘(むすめ)5人が待っていて、賑(にぎ)やかに舟へ乗り込んだ。中の一人が「おれらは一緒(いっしょ)に岩渕まで行きやす」と船頭(せんどう)に言った。

 舟が下り出すと、5人の娘たちは手拍子(てびょうし)を打って、次々と歌い乗り合い客を喜ばせた。中には娘たちと仲間になって、歌う者も出た。船が夕方、岩渕の舟着場に着くと、娘の一人が「5人分だよ。おつりはいらんよ」と言って、船頭頭(がしら)に一両小判(こばん)を渡した。頭はびっくりして「ばかぁこくな。これじゃあ鰍沢からでも、10人分の舟賃(ふなちん)だ。おつりを持っていけ」と、銭箱(ぜにばこ)から一文銭(いちもんせん)をつかみ出した。

 娘たちは、揺(ゆ)れる舟からまごまごしている客を尻目(しりめ)に、身軽くひょいひょいと舟から飛び降りた。小判を渡した娘は、つり銭を数え出した頭に、「おつりはいらんよ。その小判は今夜中に使っておくれ」と言って降りて行った。

 その晩、船頭たちは岩渕の船宿(ふなやど)に泊まり、娘から小判を受け取った頭が「この一両は鰍沢へ帰って、小判なんて見たこともねえ女房(にょうぼう)子供に拝(おが)ませた後、両替(ぎょうがえ)して3人で分けざぁ」と言って、手拭(てぬぐい)にくるんで腹掛(はらが)けにしまった。引き舟で4、5日かかって鰍沢へ帰ってきてから、頭が三人で楽しみにしていた腹掛けの手拭包みを取り出して開けて見ると、小判は1枚の青い椿(つばき)の葉になっていた。

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