身延の民話



 大聖寺不動明王  だいしょうじふどうみょうおう
 京の宮中に仕えた加賀美遠光(かがみ・とおみつ)は、魔物を射落とした褒美に弘法大師作の不動明王像を賜った。帰国の途、八日市場の日下りで一天にわかにかき曇り童子が現われ、近くにある甲斐源氏開基の大聖寺に不動明王を安置せよ、と言い消えた。引き返し寺に奉納すると再び日が出た。(中富町誌)

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【地区・地名】原(八日市場) 【ジャンル】神仏 

 たかあげまこ岩  たかあげまこいわ
 日向裏山のたかあげまこ岩は、昔、土地の人が老人を背負い捨てた姥捨山であると伝えられている。(下部町誌)

【地区・地名】久那土(道) 【ジャンル】悲話 

 畳針と狐  たたみばりときつね
 遅沢(おそざわ)から飯富への崖道で夜、狐に突き落とされ死ぬ者が相次いだ。中山の若い畳職人が夜にこの道を帰ることになり、提灯を持ち道具の包みからすぐに畳針を抜き取れるようにして出かけた。中山まで行くという女に呼び止められ同行することになったが、崖の上に来ると女は提灯を叩き消し若者に体当たりした。若者は女を山側へ押し戻し畳針で突き、村へ駆け戻った。翌朝その崖下を覗くと血だらけの大狐が死んでいて、畳針は深く岩に突き立っていた。(富士川谷物語)

【同じお話】ふるさと中富のはなし
【地区・地名】原(飯富) 【ジャンル】動物 

 たぬきがかいたといわれる絵  たぬきがかいたといわれるえ
 建長寺の和尚に化けたたぬきが大島のある家に泊まったが、ごちそうを食べる前には人払いをし、犬がいないか確認した。食事している時に覗くと手を使わずに食べていた。和尚がお礼にと描いた絵を置いて行ったものが今も残っているが、布袋さんの絵で、尻尾で描いたという。(ふるさと身延第2集)

【地区・地名】大河内(上大島) 【ジャンル】動物 

 たのきの頭へ鷹の巣  たのきのあたまへたかのす
 持ち前のとんちでいつも賭けに勝っている男が友人の所へ行き、「お寺の近くでたのき(狸)の頭へ鷹が巣を作っていた」と話すと、友人はそんなことがあるはずない、と言って賭けになった。お寺の近くに見に行くと男は田んぼの傍らの木を指し「あの田の木の頭に鷹の巣が見えるだろう」と威張り、賭けに勝った。(旅と伝説)

【ジャンル】笑い話 

 旅の火  たびのひ
 連年の凶作で苦しんでいた暮れ、喜右衛門はやっと工面して餅をついた。信州の法印が火にあたりにきて「旅の火は温かい」と言うと、「茶毘(だび)の火」と聞こえたので捕り押さえ杵で殺してしまった。それからこの家では餅をつくと臼の中が赤くなり血の臭いがした。石塔を建て霊を弔うと餅が赤くなるのは止んだが、家はその後絶えてしまった。(下部町誌)

【地区・地名】久那土(道) 【ジャンル】怪異 

 稚児が淵  ちごがぶち
 花若、月若の二人の美しい稚児が、ある僧に寵愛されたため池へ身を投げて死んだ。二人は祠に祀られ「稚児文殊」と呼んた。(身延町誌)

【地区・地名】身延(身延山) 【ジャンル】悲話 【キーワード】身延山

 稚児文殊の井  ちごもんじゅのい
 本山に文殊という美しい稚児がいた。文殊に愛を寄せる女の思いから足に子を懐妊したため、恥じて筆で喉をつき井戸に身を投げ死んだ。井戸のそばにある大杉の根から清水が湧き出している。(身延町誌)

【地区・地名】身延(身延山) 【ジャンル】悲話 【キーワード】身延山

 乳の木さま  ちちのきさま
 杉山に隠棲した日有(にちう)上人は、信者を集め有明寺のわきに生身を埋めた。竹筒を通して読経が聞こえたが7日目に止んだので、この日を命日にしたという。愛用の銀杏の杖を上沢寺(じょうたくじ)の故事にならい境内にさすと巨木となり、幹から乳色の水がわき出た。(下部町誌)

【地区・地名】下部(杉山) 【ジャンル】人物譚 【キーワード】杖立伝説

 長者の池  ちょうじゃのいけ
 村境の山頂へ落人らしき二組の家族がきて百姓生活を送るうち夫婦も老境に入り、一旗あげる夢も失い小さなお堂を建て阿弥陀如来を祀った。山の上は不便なので切房木(きりふさぎ)へ下った。山頂の住みついた場所は「長者の屋敷」、泉は「長者の池」といい今も清水がわき池大明神が祀られている。お堂は御崎地内に移り、西方寺として今なお栄えている。(下部町誌)

【同じお話】久那土の民話
【地区・地名】久那土(切房木) 【ジャンル】言い伝え 

 てうちてち  てうちてちのはなし
 山尾根の畑で大豆栽培を始めた梅平(うめだいら)の甚左衛門という若者が、ある晩畑のそばの小屋で寝ずの晩をした。ついうとうとした時に狸がやって来て「豆尾根の甚どんが豆食って、てうちてち、てうちてち」とからかった。甚左衛門が「おまえこそ、てうちてち」とやり返したので、狸がまた「てうちてち、てうちてち…」と言ったが舌がもつれ、舌を噛み切って死んでしまった。「てうちてち」とは狸の鳴き声である。(富士川谷物語)

【同じお話】ふるさと身延第1集「テウチテチの話」 延壽の里「テウチテチの話」
【地区・地名】身延(梅平) 【ジャンル】動物 【キーワード】歌や呪文・言葉の遊び

太鼓の胴が流れ着いたといわれる辺り
 デードブチ  でーどぶち
 洪水で法円寺下の淵へ大きな太鼓の胴が流れついたので、名主が拾い上げ革を張り換えて寺へ納め、毎日使うようになった。樋の沢奥の共有地を開墾した時もこの太鼓の音を合図にしたという。翌年の豪雨の土砂で沼は一朝にして美田と化し、村人は太鼓との因縁かと感謝して、漂着した場所を大胴淵(だいどうぶち)と呼んだ。(下部町誌)

【地区・地名】久那土(車田) 【ジャンル】由来 

 手打沢の名称  てうちざわのめいしょう
 代官所の手代が作柄の検分に来た時、ある百姓が偽りの申告をし、山の沢でお手討ちになったので手打沢と呼んだ。また、その場所で重要な交渉が成立したしるしに手締めの手打ちをしたから、との説もある。(中富町誌)

【地区・地名】静川(手打沢) 【ジャンル】由来 

 天狗にさらわれた子どもの話  てんぐにさらわれたこどものはなし
 畑仕事に出かけた母を追った子供が行方不明になり、村中で手分けして探したところ、高い岩の上で見つかった。子供の頭には三箇所、鋭い爪の跡があった。(延壽の里)

【ジャンル】怪異 

 でんぼ穴と狐  でんぼあなときつね
 岩渕からの富士川の引き舟に狐の夫婦が乗り込んだが、八日市場まで来た時にひどく空腹だったので、「お釜」と呼ばれる場所で舟が一休みする間に飛び下り「でんぼ穴」という横穴に潜り込んだ。そこで眠っている間に舟は出てしまったので狐はここに棲みつき、それが富士川端の狐の先祖だという。これらのいたずら狐を忌み嫌ったため、この地域にはお稲荷さんが一つもないとも言われる。(中富の民話)

【同じお話】ふるさと中富のはなし
【地区・地名】静川(下田原) 【ジャンル】動物 【キーワード】富士川・屏風岩

 樋田の天神社  といだのてんじんしゃ
 樋田の天神社の祭神は出雲の国造の祖天穂日尊(あめのほひのみこと)である。武田、今川が勝坂(かんざか)で戦った時、武田軍は敵をはさみ討ちにしようと二手に分かれたが、このうちの一軍が通過の際、戦勝祈願をしたのがこのお宮であり、勝坂峠で大勝したことから、戦後武田家からの御下賜金で立派な杜殿を造営したという。(下部町誌)

【地区・地名】久那土(樋田) 【ジャンル】神仏 【キーワード】武田信玄

 道心平  どうしんだいら
 村の下の林の中の屋敷に住んでいた長者は、高僧の御弟子の小僧に千両箱を背負わせては山中に運び、深い穴を掘って巨万の富を埋め、小僧を丸太で打ち殺した。長者が世を去ると寝床の下から「朝日さす夕日輝くこの丘に、黄金千貫金が千貫」と記した紙が出てきた。宝きょう印塔が建ち、近くに小僧の墓もある見晴らしのよい尾根を「道心平」と呼ぶ。(下部町誌)

【地区・地名】古関(折門) 【ジャンル】言い伝え 【キーワード】歌や呪文・言葉の遊び

 洞泉  どうせん
 藤藪という場所に洞泉という、村のお寺まで続くといわれる穴がある。大石が幾つも重なり合った下に穴があり、武田信玄が金を埋蔵したと伝えられる。(ふるさと身延第2集)

【地区・地名】大河内(上八木沢) 【ジャンル】不思議 【キーワード】武田信玄

 とうもろこしのお経  とうもろこしのおきょう
 こっちの村で働いている男衆は、帰りに酒屋の店先で一杯やってから暗い山道を登って向こうの村へ帰っていた。はっちゃんという男は酒好きで毎日欠かさず酒屋に寄っていたが、ある日、飲んだあと土産に魚を買って山道を行き、途中で一休みするうちに眠ってしまった。夢枕にお釈迦様が立ちお経の巻物を授かった。夢中で家に戻り家族を起こして巻物を見せたが、それはとうもろこしだった。狐に化かされたと気づき引き返してみると、魚はなくなっていた。(身延町のむかしばなし)

【地区・地名】下山(杉山) 【ジャンル】動物 

 十日ん夜の餅  とうかんやのもち
 江尻窪(えじりくぼ)のある農家の若い夫婦が、秋の収穫を祝う十日ん夜に神様にお供えする餅をついた。赤ん坊を背負った妻が手返しをしていたが、前かがみになった時に赤ん坊が臼の中に滑り落ち、夫は杵を止めることができず赤ん坊をつき込んでしまった。翌年の十日ん夜に餅をつくと江尻窪中の餅が赤く染ったので、人々は「金比羅さまのお怒りだ」と言って十日ん夜の餅は村のご法度となった。(ふるさと中富のはなし)

【地区・地名】曙(江尻窪) 【ジャンル】由来 

霊松の切り株
善妙寺
 年越の松  としごしのまつ
 日蓮聖人が善妙寺に立ち寄った折、節分会(せつぶんえ)の豆まきをし境内に記念の松を植えた。年越しの日に植えたので「年越の松」と呼んだ。また、聖人が松葉杖を境内にさしておいたものが成長したので、枝が下に伸びたさかさ松だったともいう。(中富町誌)

【同じお話】ふるさと中富のはなし
【地区・地名】静川(切石) 【ジャンル】自然 【キーワード】日蓮聖人 杖立伝説

 飛び上る観音堂  とびあがるかんのんどう
 古長谷(ふるはせ)村には寺がなく、常獄寺を建立し下山龍雲寺の末寺とした。長谷寺の観音様を御本尊に望んだが、龍雲寺の住職に断られた。遅沢(おそざわ)まで戻ると観音堂があり美しい観音様が安置されていたので、持ち帰り常獄寺に安置した。遅沢村の人たちが返すよう交渉したところ、「盗んだわけではなく観音様が飛び上がって来たのだ」と言われ、観音様の背中に「遅沢村より飛び上る」と書いて後世に残した。(中富町誌)

【同じお話】ふるさと中富のはなし「飛び上がる観音様」
【地区・地名】曙(古長谷) 【ジャンル】神仏 

 どろぼう渡世をしよう  どろぼうとせいをしよう
 名主がある百姓から年貢を六文余分に取り上げたので、怒った百姓は市川代官所へ訴えた。双方が言い張り七年経ってもけりがつかず、代官は百姓に訴えを取り下げたらどうかと言った。次の日百姓は妻子とともに代官所へ行き、代官の前で妻子に「おまえら、よく聞け。名主は六文ごまかしても罪にならない。おれらは貧乏人だから六文以下の泥棒をして食っていこう。六文以下なら罪にならないから」と言ったので、代官もとうとう名主に縄をかけた。(ふるさと中富のはなし)

【ジャンル】笑い話 

 泥棒と息子  どろぼうとむすこ
 泥棒がある家に忍び込もうとして十二、三歳の息子に入口を見張らせ、誰か来たら知らせるように言った。「誰が見てなくてもお月様が見ていておとっちゃんが泥棒するのを知っている」と息子が言うので、父は泥棒をやめて働くようになった。(旅と伝説)

【ジャンル】笑い話 

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