身延の民話



 日遠上人のお曼荼羅  にちおんしょうにんのおまんだら
 大崩(おおくずれ)の奥に「ばけもの穴」という場所がある。大野山本堂普請の折、小屋を建て木挽きらが仕事をしたが、邪魔が入るようになった。ばけものの仕業と考え、大野山の日遠上人が認めた曼荼羅をかけると、邪魔がなくなった。(ふるさと身延第2集)

【同じお話】身延町のむかしばなし「化け物穴」(曼荼羅は日遠上人ではなく日蓮聖人のものとしている)
【地区・地名】大河内(大崩) 【ジャンル】怪異 

 日台上人の御夢想  にったいしょうにんのごむそう
 かつては日蓮聖人の御草庵の場所を久遠寺(くおんじ)と呼んでいたが、十一世日朝上人が現在の地へ移した。後に古い経巻の包み紙に、五世日台上人が見た夢について書き残したものを発見した。夢の中で日台上人は、梅平(うめだいら)から身延山を望むと中腹に七堂伽藍が美しく聳えるのを見て、「身延山も行く末はかように繁栄するだろう」と思い、夢から覚めて書き留めた。(身延町誌)

【地区・地名】身延(身延山) 【ジャンル】人物譚 【キーワード】身延山

 ねじり坊  ねじりぼう
 一人の法印が市之瀬の農家を訪ね、「追っ手に追われているのでかくまってほしい」と哀願したが、主は家にまで危害が及ぶことを恐れ断った。法印は峠の登り口で追っ手に殺されてしまった。村人たちは祠とねじり捧状の墓碑を建て、彼岸には供養した。以来ねじり坊という。(下部町誌)

【同じお話】富士川谷物語「山伏と法印」
【地区・地名】下部(市之瀬) 【ジャンル】悲話 

延命地蔵とも呼ばれる
 灰土地蔵  はいつちじぞう
 和田原を耕地として拓きたいと願っていた若者が、富士裾野の開墾に行き裾野の灰土を持ち帰り、和田の地蔵様に灰土をお供えした。翌朝見てみると和田原一体に灰土が広がり、石ころの河原が黒土の耕地となっていた。(身延町誌)

【同じお話】ふるさと身延第2集 身延町のむかしばなし 富士川谷物語「新集落を開いた若者」
【地区・地名】大河内(和田) 【ジャンル】神仏 

 八王沢の狐  はちおうざわのきつね
 八王沢奥の杉の森に、狐を祀る神様と伝わる小さな祠がある。明治の頃、八王沢近くの畑で麦蒔きを終え帰ろうとすると娘の姿がなく、朝を待って山狩りをしたところ大きな岩穴の中に娘がうずくまっていて、周りには狐の糞と食べ物が散らばっていた。狐に化かされ一晩中山を連れ回された娘は疲れ果てて青ざめ、呆然としていた。娘は十六で亡くなり、狐の祟りと考えて村人たちは祠のお祭りをした。(中富の民話)

【同じお話】ふるさと中富のはなし
【地区・地名】静川(下田原) 【ジャンル】動物 

 八幡社の額  はちまんしゃのがく
 雨上がりの濁流の富士川を下ってきた船が、藪が滝という危険な場所で破船し、二人の船頭が溺れそうになった。どこからともなく太い竹が1本彼らの側に流れて来て、空を見ると神が見守っていた。その二人が寄進したと言われるのが波木井の八幡様の額である。(身延町誌)

【地区・地名】身延(波木井) 【ジャンル】神仏 【キーワード】富士川・屏風岩

 蛤岩の狐  はまぐりいわのきつね
 ある女の人が小原島から用事の帰り、蛤岩の下の河原を通りかかると名前を呼ばれたが、振り向いても誰もいない。怖くなり帰りの道を急ぐがどうしても家へ帰り着けず、夜中にやっとたどり着いた。蛤岩付近は一本道で迷うはずがなく、狐に化かされたのだろう。(ふるさと身延第2集)

【地区・地名】下山(小原島) 【ジャンル】動物 

 引核峠のお地蔵様  ひくさねとうげのおじぞうさま
 かつて八木沢から帯金(おびかね)へは引核峠を越えていたが、頂にお地蔵様が祀られていた。静仙院の記録によると、乾草根(引核)の地蔵尊は三集落(上・下八木沢、帯金)に異変がある時に石仏血色となる、と記されている。(ふるさと身延第2集)

【地区・地名】大河内(八木沢) 【ジャンル】神仏 

 火種と死人  ひだねとしびと
 囲炉裏の火種を絶やしてしまった妻が、旦那に知られたくなかったので、家の前を通ったお爺さんに提灯の火を借りたいと頼んだ。お爺さんは引き換えに、持っていた重たそうな風呂敷包みを「実はこれは死人だ」と言って渡した。妻は死人を納戸へ隠し、日が出てから風呂敷を開けてみると、重たい黄金の金仏様が入っていた。(旅と伝説)

【ジャンル】不思議 

 人肌観音  ひとはだかんのん
 方外院本尊の如意輪観世音像は行基の作で、人肌と同じ体温があるという。仏門に入った武田信玄が寺に参詣しその話を聞き、須弥壇に上がって厨子の扉に手をかけようとした瞬間壇下へ投げ落された。信玄は額づいて無礼を詫び、武田菱の使用を許可し御朱印地七石を賜った。(下部町誌)

【地区・地名】古関(瀬戸) 【ジャンル】神仏 【キーワード】武田信玄

 紐掛石  ひもかけいし
 甲斐の盆地が湖だった頃、東光寺の国母地蔵と鰍沢の蹴裂(けさき)明神が鰍沢(かじかざわ)の下の岩を切り開いて水をはらったが、その時に紐をかけた岩を紐掛石といい、貝の化石が残っている。(身延町誌)

【地区・地名】下山(粟倉) 【ジャンル】言い伝え 

屏風岩
 屏風岩「風掛けの松」  びょうぶいわかざがけのまつ
 屏風岩の中腹に「風掛けの松」と呼ばれる老松がある。ある朝、屏風岩近くに草刈り出た年頃のお妙は見知らぬ美男と出会った。翌朝早くお妙は晴れ着で装って出かけ、そのまま帰らなかった。天気が急変し七面山に黒雲が現われ嵐になった。天気の回復を待ち村人が探しに出ると、屏風岩の老松にお妙の晴れ着が引っかかっていて、大蛇の通う道がありお妙の櫛が落ちていた。七面山の主の大蛇がお妙を連れ去ったとし、寺を建てお妙の霊をなぐさめた。(中富の民話)

【地区・地名】原(飯富) 【ジャンル】怪異 【キーワード】富士川・屏風岩

 兵部平  ひょうぶだいら
 烏森山西側の平な場所を「兵部平」といい、飯富(おぶ)兵部小輔虎昌の居処であった。飯富の豪族が合戦をし勝負を決したので「勝負平」ともいう。兵部平を下った傾斜地には、豪族が昔その下に財宝を隠したという大石がある。(中富町誌)

【地区・地名】原(飯富) 【ジャンル】由来 

 びんぜえし  びんぜえし
 交通が不便だった頃、西の身延方面と東の富士裾野方面との間を杣人などに頼み言伝をしてもらったことから、この峠をびんぜえしと呼んでいる。(身延町誌)

【地区・地名】大河内 【ジャンル】由来 

 富士川下りの五人娘  ふじかわくだりのごにんむすめ
 宮木村でに家々の鶏が狐に盗まれ、松林の奥の狐穴を青松葉でいぶし出すと、数匹の狐が穴から飛び出して松林に逃げ込んだ。間もなく宮木の舟着場に着飾った五人の娘が現われ、下り舟に乗った。岩渕に着くと娘の一人が一両小判を渡し「おつりはいらない、今夜中に使ってくおくれ」と降りて行った。船頭は小判を手拭にくるみ、引き舟で四、五日かけて鰍沢まで戻ってから取り出してみると、一枚の青い椿の葉になっていた。(富士川谷物語)

【同じお話】ふるさと中富のはなし 富士川流域を歩いて「きつねの富士川下り」
【地区・地名】原(宮木) 【ジャンル】動物 【キーワード】富士川・屏風岩

 ふじ川のこと  ふじかわのこと
 甲府の町が大きな湖だった頃、平地がなく耕作に苦労する百姓の様子を村のお地蔵さんが見ていて、二人の神様に応援を頼んだ。二人は山に穴を開け蹴倒しので湖の水がどんどん駆け下り、その音を聞いた不動さまが水をうまく引いて富士川に落とした。七日七晩流れて湖の底が見え、肥えた平地を耕すようになり仕事が楽になった。稲積地蔵が祀られ、山に穴を開けた神を穴切神社、蹴破った神を蹴裂(けさき)明神、水を導いた神を瀬立(せたて)不動として祀った。(ふるさと中富のはなし)

【地区・地名】静川 【ジャンル】神仏 【キーワード】富士川・屏風岩

 富士川の鼻黒舟  ふじかわのはなぐろぶね
 吹雪の中で作業していた舟大工たちを気の毒に思った名門の主が、自分の家の土間を仕事場に提供した。数日で新しい舟ができたが、舟の鼻頭にかまどの墨がついてしまった。代官所からの下検分の折にお詫びすると、主人の心づくしを称え「鼻黒舟」と呼んだ。(身延町誌)

【同じお話】ふるさと身延第2集 富士川谷物語「鼻黒舟」
【地区・地名】大河内(和田) 【ジャンル】由来 【キーワード】富士川・屏風岩

 古猫の踊り  ふるねこのおどり
 杢左衛門が野良仕事から帰り家をそっと覗くと、飼い猫が手ぬぐいをかぶり釜のふたを叩きながら歌い踊っていた。杢左衛門が猫の名を呼ぶと、猫の姿に戻り鳴いて返事をした。(中富町誌)

【同じお話】中富の民話「猫の踊り」 富士川谷物語「年をとり過ぎた猫」 ふるさと中富のはなし「年をとり過ぎた猫」 富士川流域を歩いて「年をとったねこ」
【地区・地名】大須成(大塩) 【ジャンル】怪異 

 へだまの段  へだまのだん
 古谷城(こやしろ)に住むある老人は川の砂金がたまる場所を知っていて、商人からものを買うと、代金は雨が降ったあとに砂金で払っていた。その場所について老人は「へだまの段であと見れば…」と言い残し死んだが、村人たちは見つけることができなかった。(身延町誌)

【同じお話】富士川谷物語 身延町のむかしばなし
【地区・地名】豊岡(大城) 【ジャンル】言い伝え 【キーワード】歌や呪文・言葉の遊び

 蛇森のほこら  へびもりのほこら
 七兵衛という農夫が向川山のふもとに草刈に登ると、道端の大石に大蛇が七巻き半、巻きついていたので、鎌を振るって切り殺した。家に帰った七兵衛はその日から床に臥し、大蛇の血が幾日も川を赤く染めた。村の住持が説経し大石に祠を刻み祀ったので、七兵衛も働くことができるようになった。(中富町誌)

【同じお話】ふるさと中富のはなし「蛇森の祠」
【地区・地名】静川(石畑) 【ジャンル】怪異 

西方寺裏の畑の中に祀られた法印様
 法印様  ほういんさま
 托鉢に廻ってきた法印が「火事が起きないように」と呪文を唱え逆さ貝を吹いた。逆さ貝を吹けば火事が起きるといわれていたので村人は怒り、役人は法印を高手小手に縛り首だけ出して道端に埋め、通行人は竹鋸で首を一挽きずつ切って通った。法印は火事が起きないことを祈りながら息絶えた。一年後「火事が起きなかったのは法印様が祈ってくれたからだ」と村人が墓石を建てると、白い石は首のあたりから袈裟掛に赤茶けた。(下部町誌)

【同じお話】久那土の民話
【地区・地名】久那土(切房木) 【ジャンル】言い伝え 

 法印様と火伏せの祈祷  ほういんさまとひぶせのきとう
 西嶋の紙漉き工が秋葉山で修行し法印になり、西嶋に戻ってからも寒行を勤め説経修行を積み、火伏せの祈祷をしていた。ある紙屋の主人が「あなたの祈祷など効きっこないよ」とからかうと、法印様は原料のかまどに向かい呪文を唱えた。原料は半日炊いても煮えなかった。(中富町誌)

【同じお話】ふるさと中富のはなし「法印さまと火伏せの祈祷」
【地区・地名】西嶋(西嶋) 【ジャンル】不思議 【キーワード】西嶋和紙

方外院の鐘楼
 方外院の鐘  ほうがいいんのかね
 本栖(もとす)湖畔の方外庵を村に移すことになり、釜額(かまびたい)、中之倉(なかのくら)、古関(ふるせき)、瀬戸の名主が相談したがまとまらず、明朝一番先に観音堂へ行った村へ移すことにした。瀬戸の衆は暗いうちにこっそり出かけ、他村の名主が眼ざめる頃には車を引いて峠を下りてきた。他村の衆が「大鐘ぐれえ残ってるら」と上っていくと瀬戸の衆が大鐘を運んできたので、その鐘を奪おうとした。瀬戸の衆が大急ぎで逃げるうちに荷縄が緩み鐘がずり落ちたが、縄を鐘の竜頭へかけて村まで運び、お堂を造り本尊を祀り鐘楼に大鐘を吊った。(下部町誌)

【同じお話】富士川谷物語
【地区・地名】古関(瀬戸) 【ジャンル】由来 

 疱瘡神  ほうそうしん
 かつては疱瘡が流行すると村境や家の前に注連縄(しめなわ)を張り病魔の侵入を防いだ。疱瘡にかかると、呪いとして桟俵(さんだわら)に赤紙の御幣(ごへい)を立て赤飯を供えて辻や川に送った。集落の寺の境内には朱塗りの華麗な祠に疱瘡神が祀られた。病状を軽く済ませるよう疱瘡神に祈願し、家の屋根に赤紙の御幣を飾り入口には赤紙に両手を墨で押したものを逆さまに貼った。治癒すると赤飯を供え、手型の神を正しく貼り直し御幣を疱瘡神の祠へ供えた。疱瘡神は赤いものを好んだという。(ふるさと中富のはなし)

【地区・地名】大須成(大塩) 【ジャンル】神仏 

 法山  ほうやま
 西嶋から富士川を隔てた山に金色の後光がさしていたので、若者数人が訪ねて行くと古関(ふるせき)村の法山で、岩壁に七字のお題目の字が輝いていた。昔、日蓮聖人が衆生を救うため道場を開こうとしたが、山の規模が小さいのであきらめ、去る時に岩に爪で題目を書いたのでこの山を法山と称し、岩を爪書きの曼陀羅岩という。若者たちは合掌し、尊い岩を伏し拝んで帰った。(下部町誌)

【地区・地名】古関(古関) 【ジャンル】神仏 【キーワード】日蓮聖人

菩提梯
 菩提梯  ぼだいてい
 身延山にまだ石段がなかった頃、佐渡(さど)の仁蔵が「石段を作りたい」と宗祖の御前に祈願した。仁蔵は佐渡の山に一面の金を見つけ、その金を持って身延山に登り村々から石材を集めた。数日で多くの石材が集まり、菩提梯ができあがった。(身延町誌)

【地区・地名】身延(身延山) 【ジャンル】神仏 【キーワード】身延山

もどる