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 もっとくわしく知りたい! *生態などはゲンジボタルについて書いています。
学術的がくじゅつてきなこと

 「コウチュウ目」の「ホタル科」の「ゲンジボタル」です。ホタルは甲虫類 こうちゅうるい ですが、甲虫類とは「コウチュウ目」に分類される昆虫 こんちゅう の総称 そうしょう です。

 ホタルの種類は世界で2000種ほどがあり、日本には50種ほどが棲息 せいそく しています。ホタルといえば光る虫、というイメージがありますが、「よく光る」種は全体の3分の1ほどで、ほとんどが「発光しない」か「非常に弱い光」なのだそうです。
ホタルの種類

 ホタルには、幼虫 ようちゅう の時を水中で過ごす「水生 すいせい ホタル」と、幼虫の時から森や林に棲 す む「陸生 りくせい ホタル」がいます。「水生ホタル」の種の数は少なく、世界で約10種ほどですが、そのうちの3種、「ゲンジボタル」「ヘイケボタル」「クメジマボタル」が日本にいます。

北海道にいるゲンジボタルは、自然分布ではないそうです。
 日本に棲息 せいそく する3種の水生ホタルの特徴 とくちょう をまとめました。いずれの種でも、オスよりメスの方が体が大きいです。
  ゲンジボタル ヘイケボタル クメジマボタル
体長 15〜18mm7〜10mm15〜18mm
前胸部の黒 十字型太い線なし
分布
ぶんぷ
本州、四国、九州日本全土〜東シベリア、韓国 かんこく久米島 くめじま
幼虫の生息地 川、せせらぎ湿地 しっち、田んぼ
ホタルの一生

 ホタルはどんな一生を過ごすのでしょう。卵から生まれ、やがて成虫になって卵を産むまでを追ってみましょう。


たまご

 ゲンジボタルの卵は楕円 だえん 気味の球形で、0.5mmほどの大きさです。水面に近い日陰 ひかげ のコケなどに産みつけられます。産みつけられたばかりの卵は淡 あわ い黄色で、孵化 ふか が近づくにつれ中の幼虫 ようちゅう が透 す けて見えるようになります。産卵 さんらん 直後からわずかな光を放 はな ち、徐々 じょじょ に強くなっていって、刺激 しげき を受けた時にはいっせいに強く発光するそうです。

 卵は30日前後で孵化します。

幼虫ようちゅう

 卵 たまご から孵化 ふか した幼虫 ようちゅう は、速 すみ やかに水中に入ります。幼虫の体長は1.5mmほどで、環境や個体の性質などにより9ヶ月〜3年の間、水中で生活します。

 ゲンジボタルの幼虫が好 この むのは、年間を通して水温と水量が安定した環境 かんきょう です。穏 おだ やかな流れのある、酸素が豊富な清流が適しています。

 夜間に、自分の体の大きさに適したサイズのカワニナを見つけると牙 きば で殻 から に噛 かじ りつき、強い消化液 しょうかえき を注入し、カワニナの体を溶 と かしながら食べます。「体外消化」という仕組みです。食べもののほとんどがカワニナで、蛹化 ようか のために上陸するまでの間に、1匹の幼虫が20個ほどのカワニナを食べるということです。

 幼虫は水中にいる時にも弱く発光しています。10ヶ月ほどの間に5〜6回の脱皮 だっぴ をして終齢 しゅうれい に達します。

  上陸の時期は、地域 ちいき による差はあるものの、毎年ほぼ同じです。何日か降り続いた雨の夜に限るため、その年の気候に影響 えいきょう を受けます。上陸すると、はい回って適所 てきしょ を見つけ、土の中に潜 もぐ り込 こ みます。この間も発光し続けています。


さなぎ

 深さ1〜6cmの土の中に潜 もぐ り込 こ んだ幼虫 ようちゅう は、楕円形 だえんけい の部屋を作り、体から分泌 ぶんぴつ した液体によって硬 かた くなった蛹室 ようしつ の中で、じっとして過ごします。これは前蛹 ぜんよう という時期で、30〜40日ほど続き、やがて蛹化 ようか します。

 蛹になると、一日中光り続けます。蛹になった時には、幼虫と同じ腹部第8節の背中 せなか 側が光りますが、やがて腹側の成虫と同じ節が光るようになります。蛹化してから10日ほどで羽化 うか が始まり、さらに3〜4日後に地上に出ます。

成虫せいちゅう

 オスの方がメスよりも10日ほど早く羽化 うか を始めます。オスとメスの比率は、発生の最盛期 さいせいき で3:1ほどです。発生の期間は約1ヶ月続きます。

 日没 にちぼつ 後、1時間が過ぎた頃 ころ から、繁殖 はんしょく 行動が始まります。オスは光りながら飛び回って、葉先などで止まって光っているメスを見つけて交尾 こうび を行います。交尾は、夜が明けたあとまで、15時間ほども続きます。

 成虫は水分を口から吸収するのみです。寿命 じゅみょう は、気温などに左右されます。条件がよければオスで2週間、メスでは3週間生きることもあるということですが、たいていの場合はオスが3〜4日、メスが5〜6日です。オスは交尾後数日で、メスは飛行移動して数日後に複数回産卵 さんらん してから命を終えます。

発光のこと

 ゲンジボタルの発する光は、ほとんど熱を持たない「冷光 れいこう」で、エネルギーの98%を光として放出しています。光から1cmの位置で、2ルクスの明るさがあるそうです。

 ゲンジボタルの発光器 はっこうき は「発光細胞 さいぼう」「反射 はんしゃ 細胞」「神経 しんけい 」「気管」から成り立っています。発光細胞の中にある発光素 はっこうそ ルシフェリン、酵素 こうそ ルシフェラーゼ、アデノシン三リン酸やマグネシウムイオンが、気管から供給 きょうきゅう される酸素によって化学反応を起こし、光を発します。

 発光の周期は国内の生息域 せいそくいき の東と西とで異 こと なっていて、東では4秒に1回、西では2秒に1回の周期で光ります。東西の境目 さかいめ は、新潟 にいがた〜長野 ながの〜愛知 あいち を通るラインで、山梨は東型に属しています。

 オスは、ほかのオスとタイミングを合わせていっせいに光る、「集団同時明滅 めいめつ 」をします。オスがみな同じタイミングで光ることにより、メスを見分けているようです。
「ホタル」の語源ごげん

 「ホタル」という言葉が使われている最も古い記録は『日本書紀 にほんしょき』だということです。
 「ホタル」の語源には主に、

   火をこぼす虫 → 「ホタリ」(火+垂 た る)
   発光する虫 → 「ホテリ」(火+照る)

の2説があります。そのほかに、

   「ヒタル」(火足)
   「ホタロウ」(火太郎)
   星垂の意味から
   「ホトロ」(「ひかる」という意味の語)から

などの説もあります。

 秦 しん の時代に呂不韋 りょ・ふい が記した『呂氏春秋 りょししゅんじゅう』には、「腐草 ふそう や朽木 くちき が化けて蛍 ほたる になる」とあります。そこから朽木の焼ける火という連想がなされ、榾 ほだ(切り株 かぶ や木端 こっぱ、焚 た き木にする木の切れ端 はし のこと)が「火立」や「火垂」につながったとする考え方もあります。
 「ホタロウ」説を唱えたのは『南総里見八犬伝 なんそうさとみはっけんでん』の著者である曲亭馬琴 きょくてい・ばきん で、「ほたるは火太郎なり。泥亀 すっぽん を沼太郎 ぬまたろう といふにてしるべし」と『燕石雑志 えんせきざっし』(1811年)に記しています。



ブッポウソウは夜は眠ってます。ホタル、食べてませんから!(たぶん)
七十二候しちじゅうにこうの中のホタル

 平安中期の漢和辞書『箋注倭名類聚抄 せんちゅうわみょうるいじゅしょう』の「蛍 ほたる」の項に、「此蟲是朽草所化也」との記述があります。「この虫(ホタル)は朽 く ちた草が化けたものである」というような意味ですが、七十二候 しちじゅうにこう のひとつにも「腐草為蛍」(ふそうほたるとなる/くされたるくさほたるとなる)が採 と り上げられています。

 古代中国発祥 はっしょう の季節の分け方に「二十四節気 にじゅうしせっき」があり、これは1年を24に分けたものです。広く知られているものに「春分」「夏至 げし」「秋分」「冬至 とうじ」があり、「立春」「立秋」「小寒 しょうかん」「大寒 だいかん」などもよく耳にしますね。ほかにも「啓蟄 けいちつ」「穀雨 こくう」「白露 はくろ」「大雪 たいせつ」など、天気の話題や文芸作品などで使われることも多くあります。
 その二十四節気のひとつひとつをさらに3つに分けたものが「七十二候」です。現在日本で主に使われているものは、日本の気候風土に合わせて改訂 かいてい されたもので、「腐草為蛍」も、元の中国のものとは異なる季節に改められています。

   日本 … 芒種 ぼうしゅ(6月6日頃〜21日頃)のうちの次候(中頃3分の1の期間)
   中国 … 大暑 たいしょ(7月23日頃〜8月7日頃)のうちの初候(初めの3分の1の期間)
ホタルのび名

 長野県を中心に全国のホタル狩 が りの唄 うた を採集、ホタルに関する研究ををしている三石暉弥 みついし・てるや さんの著書 ちょしょ では、ホタルの地方名として

   「カンネン」「カンネ」…群馬県、群馬県に近い長野県の一部
   「ヤマブキ」…長野、新潟、群馬、埼玉、山梨、静岡から青森まで(長野以東の都県)
   「ヤマブシ」…長野から東側は秋田まで。西側は山口・愛媛まで(山梨は例が見つかっていない)
   「ピカリャ」「ピカレー」「ピッカレー」…沖縄の島

などを紹介しています。

 そして、次のような引用をしています。

「山吹 やまぶき は山吹の花の色からの連想であり、山伏 やまぶし から山吹になったのか、山吹から山伏になったのか、とにかく、両者は同一語から転訛 てんか したものと思われる」「実際、山梨県北巨摩 きたこま の人たちは『山吹』というのは蛍 ほたる の一種であり、尻 しり に赤い線のある光の強いものだと説明しています」(論文『蛍狩りの唄と田の神』1954三谷栄一)

 場所によっては「山吹」は、単にホタルのことを言っていただけでなく、ホタルの中のゲンジボタル、なかでも特別大型の雌 めす を指して呼 よ んでいたようです。昔の人は暗闇 くらやみ を自在に飛び回る大型のホタルに不思議 ふしぎ な力を感じ、そのことから、山奥 やまおく にこもって超 ちょう 人間的な能力を身につけた山伏を連想した、ということなのでしょうか。



「ゲンジ」の名の由来については、定説がないというのが定説らしいです。
「ゲンジボタル」という名前

 日本の各地で見ることのできる2種類の水生ホタルには、それぞれ「源氏 げんじ」「平家 へいけ」の名がついています。2種類のホタルが入り混じって飛ぶようすに「源平 げんぺい の戦い」を重ね合わせ、大きな方を源氏、小さな方を平家とした、との説もあるようですが、まず体の大きな方が「ゲンジ」と呼 よ ばれていたために、それに対応して小さい方を「ヘイケ」と呼ぶようになった、と考えるのが自然なようです。
 そして、その「ゲンジ」については、源氏物語の光源氏 ひかるげんじ と結びつける説がいくつもあるのですが、いずれも決定的ではないようです。ここでは、民俗 みんぞく 学者の柳田国男 やなぎだ・くにお の自説を紹介します。
 柳田国男は「ゲンジ」が「験者 げんざ」あるいは「験師 げんじ」を意味すると考え、「ヤマブシ」「ヤマブキ」→「ゲンジャ」「ゲンザ」→「ゲンジ」と変化したのではないかとの仮説を立てています。けれども、この説は「源氏」説に比べてあまり賛同を得られていないようです。

 柳田説のおおもとになっている「ヤマブシ」「ヤマブキ」の関係性については、上記の「ホタルの呼び名」で触 ふ れた通りです。もう一度、整理してみますと、「ヤマブシ」「ヤマブキ」と呼ばれるようになったのは、

    「ヤマブシ」…闇 やみ に浮 う かび上がり飛ぶようすの神秘 しんぴ性、超越 ちょうえつ 性から
    「ヤマブキ」…そこかしこにふわっと丸く、山吹 やまぶき の花が咲 さ いたような光から

そして、「ヤマブシ」と「ヤマブキ」の相互 そうご 関係としては、

    「ヤマブシ」と呼ばれていたものが「ヤマブキ」に変化した
    「ヤマブキ」と呼ばれていたものが「ヤマブシ」に変化した
    比較的 ひかくてき 初期のうちから混同されていた、もしくは混在していた

のいずれかということになります。どれであるにしても、「ヤマブシ」のイメージがあったために「ゲンジャ」→「ゲンジ」と呼ぶようになったという説を完全に否定 ひてい してしまうのも、もったいない気もします。
ホタルの知識・番外編


目指せ、ホタル・マイスター!
 最後にホタルにまつわる、知っていると自慢 じまんできる(かも知れない)ちょい足し情報を。将来 しょうらい「ホタルのことなら何でも博士」になりたい人は必読!


言い伝え・ことわざなど

ホタルが
家の中に入ると…
お客が来る。
病人が出る、病気が重くなる。
凶事 きょうじ がある。
火事になる。
長雨になる。
ホタルを捕 と ると… 病気になる。
つまんだ手で眼をこすると眼がつぶれる。
ホタルの多い年は… 凶作 きょうさく、洪水 こうずい がある、伝染病 でんせんびょう が出る。
豊年 ほうねん になる。
民間療法
 みんかんりょうほう
ホタルの光は、できもの、腫瘍 しゅよう 、指病 や めによい。
とげぬき、傷 きず には、つぶして飯と練り用いる。
ことわざなど 蛍火 けいか をもって須弥 しゅみ を焼く。
→ 力のない者が、できもしない大きな仕事をしようとすることのたとえ(ホタルの光は小さくて弱い。須弥山 しゅみせん は大きな山)

蛍二十日に蝉 せみ 三日。
→ ものごとの盛 さか んな期間がとても短いことのたとえ(成虫としての命が短い)

鳴かぬ蛍に身を焦 こ がす/鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす
→ 外に表れずに内に秘 ひ めた思いは、時として外に表れた思いよりも強く、切実であるものだということのたとえ(蛍が光るのは心の中の思いが燃えているから)

水に燃え立つ蛍
→ 恋 こい しい人に会えずに心を焦がす状態。「水」に「見ず」をかけている(蛍は水の上で光り続ける)

腐草 ふそう  か して蛍となる/腐草蛍となる
→ 古代中国の俗説 ぞくせつ で、腐 くさ った草が蛍になるという。

蛍雪 けいせつ/蛍の光窓 まど の雪/雪を積み蛍を集める
→ 貧乏 びんぼう などの苦労に負けず勉学に励 はげ むことのたとえ(夜、灯火 とうか のかわりに蛍の光や雪明りのもとで勉強する)

蛍雪 けいせつ の功 こう(を積む)
→ 貧 まず しい中で苦労して勉学に励み、成果を上げること。

ホタルと俳句はいく

 「蛍 ほたる」は仲夏 ちゅうか(夏のなかば)の季語で、その子季語に「大蛍 おおぼたる」「初蛍 はつぼたる」「蛍火 ほたるび」などがあります。子季語というのは、もとの季語の言い方や意味を拡張 かくちょう した変化形の季語のことで、傍題 ぼうだい とも言います。「蛍狩 ほたるがり」「蛍籠 ほたるかご」「蛍売 ほたるうり」といった風物や、蛍の名がついた植物「蛍草 ほたるそう」「蛍蔓 ほたるかづら」「蛍袋 ほたるぶくろ」も、みな夏の季語です。
 「秋の蛍」というのは読んで字のごとく秋の季語で、これは立秋を過ぎてもまだ残っている蛍のことです。憐 あわ れさ、もの悲しさを感じさせる季語です。

 「蛍」を詠 よ んだ句をいくつか紹介しましょう。

    てうつしにひかりつめたきほたるかな  飯田蛇笏 (心像)

    蛍火や少年の肌湯の中に  飯田龍太 (百戸の谿)

    雨意ありて忽ち潜む蛍かな  山田省吾 (葛の花)

    蛍見に蛍絵団扇配られて  佐野澄江 (亡父の背広)

    蛍火やしあはせは掌のうちにあり  広島爽生 (身延春秋)

    背に膏薬貼れぬひとり身蛍の夜  小林波留 (天上)