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 もっとくわしく知りたい!
学術的がくじゅつてきなこと

 ブッポウソウ目 もく、ブッポウソウ科、ブッポウソウ属 ぞく の、「ブッポウソウ」です。
 ブッポウソウ目には他に、カワセミ科、ヤツガシラ科などがあります。ブッポウソウ科にはブッポウソウ属、ニシブッポウソウ属の2属があります。ブッポウソウ属には3種(あるいは4種)が属し、そのうちのひとつが「ブッポウソウ」です。
 ブッポウソウ科の鳥の多くは熱帯地方や南半球に生息 せいそく していて、日本で見ることができるのは「ブッポウソウ」のみです。
分布ぶんぷ生息地せいそくち

 インド、スリランカ、東南アジア、中国、ロシア東部のアムール川とその支流 しりゅう の流域 りゅういき、朝鮮 ちょうせん 半島、日本、オーストラリアに分布 ぶんぷ していて、日本には夏鳥 なつどり として本州、四国、九州に渡来 とらい します。
 日本での生息地は山地、丘陵地 きゅうりょうち、平地の、杉 すぎ などの巨樹 きょじゅ・古木がある場所で、きわめて局地的 きょくちてき です。古くから知られている繁殖地 はんしょくち は、長野県の御岳 おんたけ 神社、愛知県の鳳来寺山 ほうらいじさん、岐阜県の洲原 すはら 神社、そして身延山です。
繁殖はんしょく

 ブッポウソウは一夫一婦制 いっぷいっぷせい で、繁殖期 はんしょくき は5〜7月です。産 う む卵 たまご の数は3〜5個で、抱卵 ほうらん はオス、メス両方がします。卵は22〜23日で孵化 ふか します。
 雛 ひな の羽が生えるまではどちらか片方だけが餌 えさ を運び、雛に羽が生えるとオスもメスも餌を取りに出ます。25日ほどで巣立 すだ ちします。
ブッポウソウの一年

ブッポウソウの一年
たまご

 ブッポウソウは自分で巣を作らず、大きな木の洞 うろ やキツツキの古い巣、高い建築物にある穴 あな、巣箱などを利用します。巣の中に巣材 すざい を入れることはしません。
 卵の色は白で、ほぼ球形をしています。これは巣を木などの穴の中に作ることに関係しています。巣の中を直接、敵 てき から見られる可能性が低いため、暗い中で目立つ白の方が親鳥にとっても都合 つごう がよく、転がり落ちる心配もないので、球形である方がより効率的に温めることができるのです。



研究者のために、いろんなものを残しているのです(ぶっくん説)。
巣が…きたない!

 多くの鳥は、卵が孵化 ふか すると殻 から を巣の外に捨てます。また、雛 ひな の糞 ふん は、親鳥が食べたり巣の外に捨てたりします。これは、清潔にしておくことで敵に巣を発見されないようにするためです。
 ところがブッポウソウは、卵の殻を巣の中に放置したまま。雛の糞もそのまま。雛が吐 は き出したペリット(不消化物 ふしょうかぶつ)もそのまま。育雛期 いくすうき はちょうど梅雨時 つゆどき に重なり、育雛期後半の巣にはハエやウジ虫やミズアブの幼虫 ようちゅう などがわいて、小さな昆虫が巣穴の入り口に舞 ま うとのことです。下から双眼鏡 そうがんきょう で見て、巣口に虫が飛び回っていることが、その巣が繁殖 はんしょく に使われていることの判断材料になるほどなのだそうです。
 さらに、ペリットなどの、あらゆるものが残されているということは、研究にとっては大いに役立つことです。が、繁殖が終わったあとの巣箱を開けるには、ちょっとした覚悟 かくご が要 い りそうですね。


↑ 繁殖を終えた巣箱のようす



↑ 餌 えさ の残骸 ざんがい (タマムシ、カナブン、セミなど)

食べているもの

 高い場所に止まって周囲を見張 みは り、セミ類やヤンマ類などの大型昆虫 こんちゅう を待ちます。空中で追い回し、くわえとります。木などに止まっている虫や、地面に近いところにいるものでも、飛びながらかすめとります。ブッポウソウの脚 あし は素早く飛び立つのに適した小さい脚なので、餌 餌を をとるのに地面に降 お りて歩くことが苦手なのです。
 雛 ひな の餌 えさ としてタマムシ、カナブン、クロカミキリ、カブトムシなどの甲虫 こうちゅう を与えます。セミやバッタ、カタツムリも餌になります。



ヒトの世界ではプルリングはめったに見られなくなったけどね。
うす

 日本各地のブッポウソウの巣の中や、巣の付近からは、「貝殻 かいがら」「瀬戸物 せともの のかけら」「小石」「空き缶 あきかん のプルリング」などが発見されています。さまざまな実験の結果、つがいを形成する時期と、育雛期 いくすうき 後半にこれらのものが集められることがわかり、つがいを形成する時期には「求愛 きゅうあい の道具」に、育雛期後半には「碾き臼 ひきうす」として利用しているのではないかという結果が導き出されました。
 「碾き臼」としての利用、というのは、硬 かた くて消化がしにくい餌 えさ といっしょに硬さや鋭 するど さのあるものを飲み込み、その硬さや鋭さを利用して餌を消化しやすくすることです。この習性は日本のブッポウソウに共通していて、雛だけでなく成鳥 せいちょう も使っています。
鳴き声

 鳥の鳴き声は大きく「地鳴き じなき」と「さえずり」に分けられますが、ブッポウソウはさえずりにあたる鳴き声を持たず、地鳴きのみです。ブッポウソウの鳴き声は「ゲェッ、ゲェッ」「ギャ、ギャ、ギャ」などと表現されるものです。
 「ブッポーソー」という鳴き声の鳥は、実はコノハズクであることが昭和 しょうわ 10(1935)年にようやく明らかになりました。


こんな人がいました − 中村幸雄なかむら ゆきおさんのこと

   明治 めいじ 22(1889)〜昭和 しょうわ 49(1974)年、河口村 かわぐちむら(富士河口湖町 ふじかわぐちこまち)生まれ。農業をしながら、独学で鳥類 ちょうるい の生態や分布 ぶんぷ などを研究しました。地道 じみち な活動が認 みと められ、農林省 のうりんしょう の鳥獣 ちょうじゅう 調査委員に任 にん じられました。
 昭和3〜5年にはフィリピン・ミンダナオ島で越冬 えっとう、繁殖中 はんしょくちゅう のブッポウソウについて研究しました。そこで、どんな月明かりの夜でもブッポウソウが活動しないこと、「ブッポーソー」の鳴き声も聞こえなかったことを確認 かくにん し、さらに昭和9年の身延山東谷 ひがしだに での観察では、ブッポウソウが明らかな昼鳥である証拠 しょうこ を得ました。
 このことから、ブッポウソウは「ブッポーソー」とは鳴かないことを確信し、幾晩 いくばん もの徹夜 てつや の末に「ブッポーソー」と鳴く鳥を捕 とら え、その正体 しょうたい がコノハズクであることを解明 かいめい しました。

 中村幸雄さんの人柄 ひとがら を知ることができる資料を紹介 しょうかい します。

 中西悟堂 なかにし・ごどう 「鳥を語る」(星書房)より
『……中村氏は鳥の話を始めると、まるで打出 うちで の小槌 こづち のやうに豊かだし、山野 さんや での鳥種 ちょうしゅ 識別 しきべつ の慥 たし かさは、一寸 ちょっと 比肩 ひけん する人があるまい。/昭和十年、甲州 こうしゅう 神座山 じんざさん に夜な夜な よなよな 通うこと一ヵ月。遂 つい に声の仏法僧を射落 いおと して千余年 せんよねん の疑問 ぎもん を解決したという鳥界の大ヒットをあげた。……氏 し が単に声の仏法僧の発見という千古不滅 せんこふめつ の功績ばかりでなく、この人ほど山禽野鳥 さんきんやちょう の実際に通暁 つうぎょう している人は稀 まれ である。日本で幾人 いくにん というこの自力の達人をもつことを甲州人は自慢 じまん してよい。』

 黒田長礼 くろだ・ながみち 「鳥」(日本鳥学会発行)より
『……オースチン博士が来朝 らいちょう するや、中村君は諸県下 しょけんか へ同行して、鳥類調査に協力し、オースチン博士からは「オジサン」として親しまれていた。又、かつて昭和十年には、山梨県においてコノハズクの鳴声を確かめられたことは有名である。また鳥類保護についてはラジオ放送約一〇〇回にも及び、鳥類愛護の思想普及 しそうふきゅう としての講演は各都県 かくとけん において二〇〇回にも達しているとされる。』



ブッポーソー、とは鳴かないし、けっこうな朝寝坊さんなんです。
長い誤解ごかいけん

 弘法大師 こうぼうだいし の詩や碑文 ひぶん 、願文 がんもん などを弟子の真済 しんぜい が集成 しゅうせい した『性霊集 しょうりょうしゅう』に、「仏の教えの三つの宝 たから(仏・法・僧)を一つの鳥の声に聞く」と詠 よ んだものがあります。この詩により、仏の教えを唱える貴 とうとい い霊鳥 れいちょう として「仏法僧鳥 ぶっぽうそうちょう」、「三宝鳥 さんぼうちょう」、「念仏鳥 ねんぶつどり」と呼ばれるようになり、世間に広く知られることとなって、以後多くの詩歌 しいか に詠まれるようになったといいます。
 実際に「ブッポーソー」と鳴く鳥はコノハズクなのですが、長い間ブッポウソウだと勘違い かんちがい されてきました。その理由としては、どちらの鳥も「木の洞 うろ を巣として利用する」「森に棲 す む昆虫を餌 えさ とする」といった共通の習性があるために、生息 せいそく する環境 かんきょう を共有していた、ということがベースにあります。
 そして、「仏法僧というありがたい鳴き声を持つ霊鳥」としての名声 めいせい があまりに大きくなって、その姿としてふさわしいのは、美しい外見をしたブッポウソウである、と思い込んでしまった、思いたかった、ということのようです。コノハズクは夜行性 やこうせい である上に体長が20cmほどの小さな鳥なので、あまり目撃 もくげき されることがなかったのも、原因のひとつかもしれません。
 さらに、ブッポウソウはさえずりがなくて地鳴きのみですが、コノハズクは反対に「ブッポーソー」のさえずりのみで、地鳴きはほとんどしないということから、「ブッポウソウの地鳴き+コノハズクのさえずり」がセットになってしまい、「昼間にその姿 すがた が見られる美しいブッポウソウは、夜になるとブッポーソーと貴い鳴き声で鳴く」と考えられてしまったということでしょうか。
 ブッポウソウとコノハズクの共通点と異 こと なる点を簡単 かんたん にまとめてみました。「理想 りそう のブッポウソウ」は、休む間 ま もなしの忙 いそが しい鳥ですね。
  ブッポウソウ
〜姿のブッポウソウ〜
コノハズク
〜声のブッポウソウ〜
理想のブッポウソウ
生息地
せいそくち
神社仏閣 じんじゃぶっかく、森神社仏閣、森神社仏閣、森
営巣
えいそう
木の洞木の洞木の洞

えさ
森の昆虫森の昆虫森の昆虫
行動 昼行性 ちゅうこうせい夜行性 やこうせい昼も夜も?
姿 目撃 もくげき される(美しい)目撃されにくい(地味)目撃される(美しい)
地鳴き
じなき
「ゲェッ、ゲェッ」めったに出さない「ゲェッ、ゲェッ」?
さえずり 鳴かない「ブッポーソー」「ブッポーソー」



ウグイスよりもっと身近じゃないブッポウソウ…
ブッポウソウ以外の、有名な誤解の件

 ブッポウソウよりもっと身近 みぢか な鳥にも、同じような誤解 ごかい が起きているものがあります。しかも、その鳥のことを知っている人が多いだけに、今でもけっこう誤解されていることがあるようです。
 その鳥とは、ウグイスとメジロ。ブッポウソウとコノハズクの関係に当てはめると、メジロの方ががブッポウソウで、ウグイスがコノハズクです。「梅 うめ の小枝 こえだ でうぐいすが…」で始まるよく知られた童謡 どうよう、「うぐいす」の影響 えいきょう もありそうですね。
 ウグイス=メジロの関係を、さきほどのブッポウソウ=コノハズクと同じように表にしてみました。
  メジロ
〜姿のウグイス〜
ウグイス
〜声のウグイス〜
理想のウグイス
性質
せいしつ
警戒心 けいかいしん があまり強くない警戒心が強い

えさ
花や蜜 みつ が好き虫や木の実梅の花が好き
行動
こうどう
椿 つばき や梅、桜 さくら の木にやってくる ささ のある林や藪 やぶ の中に潜 ひそ んでいる梅の枝にとまる
姿
すがた
目撃 もくげき される(美しい)目撃されにくい(地味)目撃される(美しい)
地鳴き
じなき
「チィッ、チィッ」「チャッ、チャッ」
さえずり 複雑な、よい声のさえずり「ホーホケキョ」「ホーホケキョ」
ぶっぽうそうの知識・番外編


ブッポウソウ検定? ないと思います、残念ですけど。
 最後にブッポウソウにまつわる、知っていると自慢 じまんできる(かも知れない)ちょい足し情報を。将来 しょうらいブッポウソウ検定を受ける人は必読!


身延中学校の校章こうしょうのこと

 2016年、身延町内の4つの中学校が統合し、新しい身延中学校が誕生 たんじょう しました。生徒からデザイン案を募集 ぼしゅう し、学園祭での投票によって決定した校章には、ブッポウソウがモチーフに使われています。
 学校名の頭文字 かしらもじ の「M」を中心に、町の木「シダレザクラ」、そしてブッポウソウが羽ばたく姿 すがた に生徒が力強く成長する願いが込 こ められています。

おまけ − 泰作たいさくさんばなし

  土佐 とさ の幡多 はた 地方で今なお親しまれている民話に、「泰作 たいさく さん咄 ばなし 」があります。泰作さんは江戸 えど 時代の後期に実在した人物だそうで、ひょうきんで頓智 とんち がきき、思わず噴 ふ き出してしまうようなことを次々とやらかしてくれる、そんな人だったようです。 そんな泰作さんの民話のひとつに、「仏法僧の話」があります。

 行商 ぎょうしょう をしていた泰作さんは、草ぼうぼうで狭い せま 山道が何とかならないものかと思い、妙案 みょうあん を考えつきました。町で会う人会う人に、「山でブッポウソウの鳴き声がしているよ」と言いふらしたのです。
 その話がお奉行 ぶぎょう さんの耳に入りました。お奉行さんはぜひその珍 めずら しい鳥を捕 とら えたいと考え、まずは家来 けらい たちに悪い道を直させました。
 いざ立派 りっぱ な道ができて、お奉行さん一行 いっこう はブッポウソウを探 さが しに山に入りましたが、鳴き声はまったく聞こえませんでした。怒 おこ ったお奉行さんは、情報の出処 でどころ をつきとめて、泰作さんを呼 よ び出し問い詰 つ めました。
 泰作さんはしれっとした顔をして「確かにブッポウソウは鳴いていたけれど、道の普請 ふしん の折 おり に騒々 そうぞう しくしたもんだから、逃 に げ出してしまったに違 ちが いないですよ」と答えました。お奉行さんは悔 くや しがったけれど、道がきれいになったので村の人々はたいへん喜びました、という話。

 ここでいうブッポウソウは、声のブッポウソウであるコノハズクのことではありますが、泰作さんの生きた時代にも、ブッポウソウは珍しくてありがたい鳥として、人々に知られていたことがわかります。