「ミノブ」の名がついたいきものたち
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名前に「ミノブ」がついたカタツムリやクモや虫がいること、ご存 ぞん じですか? 「ミノブ」が和名に入っているものも、学名に入っているものも、どちらも身延町内で発見、採集されたことにちなんで命名されました。どんないきものたちか、見てみましょう。
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いきもののイラストについては 「まあ、だいたいのところ こんな感じの見た目らしいよ」 程度の心持ちで ご覧ください。
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ミノブマイマイ Satsuma moellendorffiana thaanumi (Pilsbry, 1924) |
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マイマイ超科ナンバンマイマイ科ニッポンマイマイ属 Superfamily Helicoidea, Family Camaenidae, Genus Satsuma |
ミノブマイマイは山地に生息する中型のカタツムリで、大正13(1924)年にアメリカ人のラングフォードが身延町内で採集し、アメリカ人の軟体 なんたい 動物学者ピルスブリーにより新種として記載 きさい されました。採集地の身延山から命名されました。
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ミノブマイマイあれこれ
殻径 かくけい | 約30mm | 生息環境 せいそくかんきょう | 山地の自然度の高い広葉樹林 こうようじゅりん。標高800m程度より低い暖帯 だんたい に生息地が多い。 |
殻高 かくこう | 約20mm |
螺塔 らとう | (渦巻 うずま き部分の高さ) 低い |
周縁 しゅうえん | 丸く細い褐色 かっしょく の色帯がある | 分布 | 神奈川県西部から山梨県南部、静岡県中部にかけて。山梨県内では身延山の他に早川町の奈良田でも発見されている。静岡県内では富士山周辺から大井川水系までの山地。フォッサマグナとの関連の可能性も考えられている。 |
臍孔 さいこう | (殻 から の下側、渦巻きの中心のくぼみ) 広く開く |
軟体部 | 黒褐色 こっかっしょく で頸部 けいぶ と眼触覚 がんしょっかく は非常に長い |
種 しゅ について | 現在はメルレンドルフマイマイの亜種 あしゅ とされている。メルレンドルフマイマイに比べて貝殻 かいがら がやや大きく扁平 へんぺい。 |
模式 もしき 標本 | 模式標本とは新種を記載する際の基準となった標本のこと。身延山で採取された殻の径31.4mm、高さ19.4mmのものが、フィラデルフィア自然科学アカデミーに保管されている。 |
陸貝のこと | カタツムリを含 ふく む陸貝は、動きが遅 おそ く大きく移動することができないため、遠く離 はな れた場所にいる仲間と出会うことが難 むずか しい。そのため小さい範囲 はんい 内での独自の進化が多く、多様な種に分かれやすいという特徴 とくちょう がある。国内にいる800種ほどの陸貝の多くは、限られた地域 ちいき のみに生息していて、9割は日本固有種。種類が多く見た目がよく似ている上に、同じ種でも殻の模様 もよう が多様なので、見分けが難しい。環境省 かんきょうしょう レッドデータブックによると、日本の陸産貝類の半数以上が「絶滅 ぜつめつ の危機 きき」、または「近づきつつある」。 |
カタツムリのこと | 生物学上の和名は「マイマイ」。地方により「カタツムリ」「デデムシ」「マイマイ」「デイロ」「ナメクジ」などと呼 よ ばれてきた。「カタツムリ」が全国的に定着したのは近代以降 いこう。 雌雄 しゆう 同体の軟体動物で、巻貝 まきがい を背負 せお い腹 はら 側の部分を使って移動する腹足 ふくそく 類。また肺 はい を持つ有肺 ゆうはい 類の中の柄眼目 へいがんもく(マイマイ目)で、2対 つい 計4本のツノを持ち、その1対に目がある。ヤマタニシは1対2本のツノで殻には蓋 ふた があり、カタツムリには含めないのが一般 いっぱん 的(原始紐舌目 げんしじゅうぜつもく)。 夜行性で雨の日の日中にも活動するのは乾燥 かんそう を逃 のが れ、最も危険 きけん な天敵 てんてき の鳥類を避 さ けるため。食べものは葉や花びら、花の芽、コケ、キノコ、藻類 そうるい、分解途中 とちゅう の落葉などの植物。殻を作るカルシウムを得るためにコンクリートを食べることも。冬眠 とうみん・夏眠 かみん をする時には殻の入口にエピフラムという粘液 ねんえき の膜 まく を作る。 カタツムリの種類を見分ける時のポイントは「大きさ」「巻き方」「形」「色」「模様(筋 すじ の入り方)」。おとなとこどもの見分けは殻。こどもは巻きの数が少なく、おとなは殻の入口が反 そ り返り分厚 ぶあつ くなっている。 |
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ミノブコヌカグモ Saitonia ojiroensis (Saito, 1990) |
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クモ目コガネグモ上科サラグモ科 Araneae, Araneioidea, Linyphiidae |
ミノブコヌカグモは斉藤博さんにより大城 おおじろ 渓谷 けいこく で採集されたサラグモ科の小さなクモです。ミノブコヌカグモは和名で、学名の「ojiroensis」は採集地の大城からつけられています。
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ミノブコヌカグモあれこれ
体長 | 1.5〜1.8mm | 生息環境 せいそくかんきょう | 山地の森林 |
特徴 とくちょう | 頭胸部は褐色 かっしょく、腹部は黒色、歩脚 ほきゃく はやや淡 あわ い褐色。特にオスの頭部が強く筒状 つつじょう に突出 とっしゅつ した特異 とくい な形をしている。 | 分布 | 日本固有種 |
生態 せいたい | 落葉層 そう に生息。成虫は夏期を除 のぞ き9月から6月にかけてみられる。小さな昆虫 こんちゅう などを食べる。 |
サラグモ科の クモのこと | 体長1〜8mmの小型のクモ。落葉の中や岩の間など地表に生活する種が多く、土壌 どじょう 動物として重要な動物群。多くがシート網 あみ か皿網を張り、粘着糸 ねんちゃくし を造らず、網に落ちてくるトビムシやダニなどを捕食 ほしょく する。落葉層に獲物 えもの の昆虫が増える冬季に成熟 せいじゅく する種が多い。世界中に分布するが北半球の冷温帯から寒帯にかけて特に多様度が高く、日本からは300種近くが記録されていて、日本産の全種数のおよそ2割を占めている。 |
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ヒラノアカヒラタゴミムシ Yukihikous minobusanus (Habu, 1978) |
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コウチュウ目オサムシ科 Coleoptera, Carabidae |
ヒラノアカヒラタゴミムシは平野幸彦さんが発見した種です。1978年に身延山で採集されて、学名に「minobusanus」とあります。1993〜94年には安倍峠 あべとうげ を含む静岡県内数カ所からも採集されています。
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ヒラノアカヒラタゴミムシあれこれ
体長 | 11.5〜12.5mm | 生息環境 せいそくかんきょう | 地中性。上記、静岡県内採集のものはすべて、秋期に林道の側溝 そっこう の落葉下から見つかっている。 |
分布 | 山梨県、静岡県 |
コウチュウ目の 虫のこと | 甲虫類 こうちゅうるい ともいい、昆虫では最も種類の多いグループ。昆虫の3分の1が甲虫類で、厚くて堅 かた い上翅 じょうし を持ち、体も堅い皮に包まれているのが特徴。 日本の甲虫類は約10000種が知られていて、その種は以下のようにとても多様である。
【食性】肉食・草食・菌 きん 食・絶食など 【生息環境】地中・陸上・洞窟 どうくつ 内・淡水 たんすい 中など 【体長】1mm未満のものから80mmまで 【体形】筒状・球状・箱状など |
オサムシ科の 虫のこと | 世界に3万種以上、日本にも1000種以上が知られていて、ハンミョウ類、オサムシ類、ゴミムシ類などに大きく分けられる。分類については研究者により見解 けんかい が分かれているものもあり、ヒラタゴミムシ類も特に問題とされるもののひとつ。オサムシ科の多くが肉食、地表性だが、植物食で樹上 じゅじょう 性の種もいる。 ゴミムシ・オサムシの仲間の特徴には次のようなものがある。
◎体は長くてやや平たい。 ◎褐色 かっしょく や黒色のものが多いが、金属 きんぞく 光沢 こうたく のあるものもいる。 ◎頭部、胸部 きょうぶ、腹部 ふくぶ はそれぞれ、はっきりと違 ちが った形をしている。 ◎上翅(前翅)に不明瞭 ふめいりょう な溝 みぞ のあるものが多い。 |
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「その他のいきもの」 参考文献
『原色日本陸産貝類図鑑』(東正雄[著] 保育社 1982)/『まもりたい静岡県の野生生物2019 静岡県レッドデータブック〈動物編〉』(静岡県くらし・環境部環境局自然保護課 2019)/『神奈川自然誌資料 第7号』(神奈川県立博物館 1986)/『カタツムリの謎』(野島智司[著] 誠文堂新光社 2015)/『日本産クモ類生態図鑑 自然史と多様性』(小野展嗣・緒方清人[著] 東海大学出版部 2018)/『原色日本甲虫図鑑(U)』(上野俊一・黒澤良彦・佐藤正孝[編著] 保育社 1985)/『甲虫ニュース No.109』(日本鞘翅学会 1995)/『昆虫の写真図鑑』(ジョージ・C・マクガヴァン[著] 日本ヴォーグ社 2000)/『ポケット図鑑日本の昆虫1400Aトンボ・コウチュウ・ハチ』(槐真史[編] 文一総合出版 2013)/『広報みのぶ 第291号』(1989.9)/『広報みのぶ 第303号』(1990.9)
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