『和紙のすばらしさ−日本・韓国・中国への製紙行脚(あんぎゃ)−』という本の表紙を開くと、口絵の『蔡倫(さいりん)、曇徴(どんちょう)と望月』という題の掛け軸(かけじく)の写真が目に飛び込んできます。そう、この口絵を飾っているのは、西嶋の和紙職人たちがお祀(まつ)りした『造紙三神像(ぞうしさんしんぞう)』の掛け軸なのです。「望月」はもちろん、西嶋に和紙を伝えたという紙祖(しそ)、望月清兵衛さんです。この本の原書は1936年にアメリカで発刊された『A
Papermaking Pilgrimage to Japan, Korea and China』(Dard Hunter)です。
この本の作者は1883年アメリカ・オハイオ州に生まれた美術工芸家のダード・ハンターさん。父が印刷業者だったことからその分野に関心を持ち、オーストリア王立印刷学校に留学(りゅうがく)・卒業後、さらにロンドン王立工業大学で手漉(す)き紙の道具製作(せいさく)を学びました。その後、ヨーロッパからアジア、アフリカまで、40余りの国の製紙事情について現地調査と資料収集を行いました。その調査をもとに手漉き製紙に関する多くの著作を出版し、国際的な紙史研究の最高権威(けんい)となった人物です。
1932年に『中国と日本での昔の紙つくり』を発刊した後、「東西の技術の歴然とした差」を感じたハンターさんは翌年春、日本・韓国・中国への製紙行脚に出ます。その経験をまとめたのがこの『和紙のすばらしさ』で、本書の中でハンターさんは和紙を世界最高のすばらしい紙と讃(たた)え、その評価を定着させたのだそうです。